「もうこれでいいじゃん」
走太さんがドサリとソファーに座り込んで長い足を投げ出す。
兄もその後ろで背もたれに体を預けながら頷いている。
私はもう3回もこの立派な革張りソファーを(これは兄が友人の近藤さんから貰ったものらしい)部屋のあちこちに移動させていた。
「うーん、やっぱりソファーはあっちの方が良くない?」
「「また俺たちに動かせって言うの!?」」
仲良く綺麗にハモった後、走太さんが兄に食って掛かる。
「どうにかしろよ。この生意気な妹。
自分はラクして浮かれてるだけでさ。
そうだ、お前の方が兄貴と身長近いんだから、兄妹で仲良く運べばいいじゃんか」
「無理無理。
私、箱入り娘だもん。
そんな重いもの動かせません」
「はぁぁぁ!?」
「いや、申し訳ないけど、あながちそれ嘘じゃないんだわ。
こいつは、徹底的に甘やかして大事にされてきたうちの末っ子だから」
兄が私に歩み寄ってきて、私のおでこを軽く弾いた。

