そんな海司の家で暮らしているうちに、少しずつ洗練されていく自分を感じつつあった10月の終わり。


学校から帰り、リビングへ入ろうとした時だった。


海司のご両親の部屋から、すすり泣く声が聞こえて来た。


え?


海司のお母さん、泣いてる?


どうしたんだろう。


部屋に入ろうかと思ったけど、余計なことをするのは気が引けて、私は仕方なくリビングへと向かった。


喉が渇いていたから、冷蔵庫を開けてお茶を取り出した。


海司の家の冷蔵庫を開けるのは、未だに気が引けるんだけど仕方がない。


その時私は、シンクの上にあるものを発見してしまった。


紙の薬袋がひとつ。


「立花綾乃様」と名前が書いてある。


海司のお母さんの薬だ。


私の母は看護師をしてる。


だから、私はわりと薬については詳しい。



この薬名は…。






抗うつ剤だ。