満月ちゃんは昔を思い出すような顔で、話を続けます。
彼が見た物語なのかは分かりませんが、魔女を視点に話は進みます。
「魔女は男に、呪いのこもった剣を渡した。
刃に触れるだけで死ぬほど痛みを感じる呪いだ。
お転婆な姫君であるシェルバート姫なら自分で剣を止めるとわかっていたからな。
案の定、姫は自分で剣を弾き、呪いを受けた。
姫の殺害を依頼されていたから、姫を殺せば男は死刑になり、辛い日々が終わると思っていた。

だが、姫は生き残り、男は姫に恋をし、約束通り妹の病気も治した。
男にとっては幸せだが、魔女は妬ましさで一杯になった。
殺しに来た相手と恋に落ち、王にも認められ、小さな小屋で二人で過ごした。
魔女は男は大好きだが、姫君が大嫌いになった。
あるとき、第三王子による王の殺害が起こった。
王子は兄たちを殺し、姫の命も狙った。
魔女は二人を助けようとした。
姫は大嫌いだが、男の幸せは姫と暮らすこと。
魔女は助けに向かった。

だが、姫はすでに死に、男は魔女がすべての黒幕と思った。
まぁ、姫に呪いをかけたのが魔女だから仕方がない事なのだろうがな。

姫は愛する人を残して死に。
男は愛する人を失い。
魔女は男に確実に嫌われた。

誰も幸せになれない、お話だ」
満月ちゃんは握っていた手を離し、本を開きました。
なぜ今、この話をしたのでしょうか。
「もう、寝るといい。あまり遅くまで起きていると治るものも治らないぞ」
眠るまで、傍にいてくれるのでしょうか。
満月ちゃんの柔らかくてゆっくりな声で、私の眠気も出てきました。
傍に誰かがいてくれるだけで、安心できるものなんですね。