学校が終わり、放課後。
いつものように家に帰っていると、黒猫を見つけた。
背筋をピンと伸ばした、真っ黒の猫。
蜂蜜色の瞳に吸い込まれるように、俺はその黒猫に近づく。
にゃあ
黒猫は一鳴きして、狭い路地に入っていった。
どこに、行くんだろう。
気になった俺は、黒猫の後を追った。
黒猫の足は早く、追い付けない。
影で暗い道を進んでいき、角を曲がってはいなくなってしまうのではないかと不安にさせる。
息が切れるほどではないが、ずいぶん長い時間、追い掛けた。

俺が黒猫に追い付き、抱き抱えることができたのは、町が夕焼け色に染まる頃だった。
黒猫はにゃーと鳴いて俺の腕をすり抜け近くの民家の庭に入っていった。
その家は、よく手入れされた洋風な庭がきれいな、大きな家だった。
芸能人が『私の別荘です』と答えても頷ける。
俺が黒猫を追いかけるか迷っていると黒猫が庭の入り口から顔を出し、鳴いた。
にゃあ
入れと、言われてる気がした。
黒猫の後を追うように、庭に入る。
どれがなんの花なのか分かんないけど、たくさん色とりどりの花が咲いていた。
「……すげ…」
今までこんなにたくさんの花を見たことが無かった。
振り返ると、黒猫が座っている。
テラスに置かれたテーブルの上。
「満足か?小僧」
少年のような声で、喋った。

黒猫が。