階段を上がる途中、前を歩くアキの背中を見た。止まって欲しいと念じたわけではないけれど、アキが止まって振り向く。

「藤沢さん、学校来たね」

「ね! 痣も治ってたし」

「俺もチートに産まれたかったな……」

歩き始める。

校舎内でも蝉の音が聞こえる。夏はあんまり好きじゃない。蒸し暑いし、急に雨は降るし、日焼けするし。

三年生って、確かに受験というものに拘束されている気がする。

自習室に入る手前に、またアキが立ち止まった。

「祈璃、来週の土曜日って空いてる?」

予備校に通っていないし、彼氏もいないし、旅行する予定もない。