ねぇ、先生?


予鈴が鳴ると、私は準備室を名残惜しくも去り、教室へ向かう。

他の生徒になるべく見つからぬよう、しかし不自然のないよう、気持ちを張りつつ。





「おはよう」


「おはよ」





教室に入ると、既に席に着いていた奈緒が振り返り声をかけてくる。





「やっぱ奈緒と席前後って嬉しいな」


「唐突だなー。まぁ原田が去年やめたからね」






年度の初めは、クラス替えはないとはいえ、教師のために席は名前の順だ。

彼女の名字は羽鳥で、去年までは私と彼女の間にもう一人、原田美香という女子生徒がいた。

元々サボりが多く、出席の少ない生徒だったが、2年が終わる少し前に彼女は突然学校をやめてしまった。

日頃の振る舞いもあり、彼女の退学にはあまりいい噂を聞かない。




「原田さん、普通にいい人だったのにな」


「あの不良が?…雪って意外と神経図太いっていうか、怖いもの知らずっていうか」


「ありがと」


「いや、褒めてないし」




そんな他愛もない話をしては笑い合う。

そんな平凡な日常。

奈緒は幼稚園からの幼馴染であり、親友だ。

彼女は私の恩人でもある。

あるいは、彼女は私以上に私のことを知っていたのかもしれない。

私を理解してくれる、大切な人の1人だった。

そして、私と先生の関係を知る、唯一の存在。





「今日も先生のとこに行ってたんでしょ」





小声で彼女は耳打つ。




「…まぁね」


「ひゅ〜お熱いね〜!この幸せ者!」


「ちょ、痛いって!」





肩をバシバシはたかれれば、私は笑交じりに彼女を止めるのだった。