あの夜を匂わせる文字などひとつもなかった。
甘い言葉も、突き放す言葉も、誤魔化しすらも。


ただひとつだけ、




>みどりの予定、先に教えといて。




――『みどり』と。

その日から確かに、彼は私を名前で呼ぶようになっていた。


「ちゃんと、覚えてんじゃん」


その日は馬鹿みたいに浮かれた。
スマホ画面に表示されるその文字を、何度も指でなぞった。

だけど他をどんなに探しても、彼の気持ちを読み取れる言葉は何もなかった。