「!瀬戸く…」


とっさにわたしが名前を呼んだ時には瀬戸くんはもう歩き出していて

曲がり角へ入り見えなくなってしまった。


だけどわたしは震えた足が止まらなくて、ビックリするくらい胸がドキドキしてしまって。


そのまま動けずにいたら、再びわたしの頭に巡ってくる瀬戸くんの言葉…。


“どうして?そんなの決まってんじゃん”


“桐谷が、好きだからだよ”


…瀬戸くん。

わたし、少しは期待してもいいですか?

あの時の言葉、少しは信じてみてもいいのですか…。


たとえそれがほんの一瞬の希望に過ぎないとしても、夢を見ている今だけは、あなたの言葉を信じていたい。


「…っ」


その瞬間、わたしは持っていたゴーグルを両手で握ると、胸にきつく抱きしめる。


そして今はもう見えなくなってしまった、大好きなあの人へ届けるように、わたしは小さく、今にも消え入りそうな声でつぶやいた。


「好き、です…。わたしは瀬戸くんのことが、好き、なんです」


毎日会えても、なぜか寂しくて


好きなだけじゃ、もう足りなくて。


近づきたいって思ってしまった。


もっともっと瀬戸くんを知りたいって…そう思ってしまった。


「好き…好き…」


込み上げる衝動をおさえきれず、わたしは思わずその場にしゃがみこむ。


…止まらない。


この気持ちは収まるどころか、日に日に強くなっていく。


たとえ欲張りになってしまっても、もう今までのような純粋な気持ちであなたを想うことが出来なくなってしまったとしても。


それでもわたしは……あなたが欲しい。