「それなら貰ってやってよ。これからの練習にも使えるだろうし」

「あ、ありがとうございます…っ」


さっきよりも大きく頭を下げてお礼を言ったわたしに、瀬戸くんは目を細めて微笑んでくれた。


わたしは嬉しくて仕方なくて、まるで感触をかみ締めるようにゴーグルを乗せた両手を思わずギュッと握りしめる。


…ほ、本当にいいのかな。これは瀬戸くんがずっと使っていた大事な物なのに。

きっと瀬戸くんにとって色んな思い出がつまっている、大切な物であるはずなのに。

それを瀬戸くんがわたしにくれるなんて…!


「それじゃあ俺はそろそろ帰るよ。じゃあね」

「お、おやすみなさい…!」

「うん。おやすみ」


そう言って、去り際の瀬戸くんはやっぱりどこかそっけない感じがしたけれど


それでも確かに…わたしに向かって笑いかけてくれた瀬戸くんに大きく胸が高鳴る。


そしてその姿はわたしに背を向けたかと思うと、ゆっくりと反対方向へと歩き出した。


…少しずつ遠くなっていく、瀬戸くんの細くて高い後ろ姿。


だけどわたしはここを離れたくなくて、何時間でもあの背中を見つめていたくて。


家へ入らずにいつまでもこの手を小さく振り続けていたら

曲がり角を通る直前に瀬戸くんがふとこっちを振り向いた。