水泳のお時間

長い時間わたしは眠り続けていたらしく

気がつくと空は薄暗くなり始め、最終下校時刻が迫っていた。


わたしはタオルで自分の体を隠しながら更衣室へ駆け込むと、急いで制服に着替える。


「…はぁ…」


ブラウスの袖に腕を通しながら、瀬戸くんの会話を思い出してしまい

思わずため息がこぼれてしまった。


…本当。自分が情けなくて仕方ない。

わたしってば溺れかけたあげく、意識まで失っちゃうなんて。


自分でも呆れてしまう。

だってわたし…本当はもっと、瀬戸くんに泳ぎを教えてもらいたかった。


昨日、最後まで出来なかった平泳ぎの練習だって

今日こそは恥ずかしがらずに教えてもらおうと思っていたのに。


プールの授業が始まるまでの間、瀬戸くんに水泳を教えてもらえる、貴重な時間だったのに…。



「あ、そういえばゴーグル…」


そんなことを考えていたら、ふとバッグの中にしまおうとしていたゴーグルに気がついた。


…わたしってば瀬戸くんに返しそびれて、つい持っていてしまったんだ。


わたしは中に入れようとしていたその手をとっさに止めると、それをジッと見つめた。


…今わたしが手にしているのは、瀬戸くんが貸してくれたゴーグル。

瀬戸くんが一年生の時から使っていた黒いゴーグル…。


「……っ」


その瞬間、わたしはとっさに唇をキュッと結ぶ。


きっと瀬戸くんにとって、あの時の行為に特別な意味なんか無くて


本当に何気ない気持ちでわたしにこのゴーグルを貸してくれたのだろうけど


それでも以前から瀬戸くんが使っていたものを、気兼ねなくわたしに貸してくれたことが嬉しくて

とてもいとおしく思えて。


胸の奥がキュッとしたと同時に

ふと込み上げた寂しさを押し込めようと、わたしはそのゴーグルを抱きしめた。


明日、瀬戸くんに返さなくちゃ…。