水泳のお時間

「桐谷が一生懸命なのは俺にもちゃんと分かる。だけど一度言われたことは二度言われないように桐谷自身も気を付けていかないと。
分からないことや不安に思う事があったら訊いてくれていいから」

「はい」

「いい子だね。じゃあまた練習しようか」


つい目先のことに舞い上がって、他のことばかり考えていた自分が恥ずかしくなった。

同時に、さっきまでずっとドキドキしていたのは自分だけだったという事も気づいてしまった。

だけどそれは初めから分かり切っていたこと。落ち込んでいるヒマなんてない。


…しっかりしなくちゃ。

これは水泳の指導なんだ。


それからのわたしは水泳以外のことは一切考えず、瀬戸くんの指導に全神経を集中させるよう精一杯努めた。


「――じゃあ手を離すから、桐谷は今教えたとおり腕を動かしてみて」


しばらくして、瀬戸くんはそう言うと、わたしから離した。

わたしはゴクンと息をのむと、ゆっくりと腕で水中をかいてみる。


「……」

「……あ、あの…」

「うん。それでいいよ。よく出来たね」


不安になってとっさに顔をあげてしまったわたしに

瀬戸くんは手を差し出したかと思うと、頭をヨシヨシと撫でてくれた。


その滑らかな手つきに、わたしはまるで飼い主に褒められて喜ぶペットのように顔を赤らめる。


…瀬戸くんて、飴とムチの使い分けが巧みだと思う。

それが自然とわたしを成長させてくれているのかな。

分かりやすいくらい、瀬戸くんの言葉ひとつひとつに一喜一憂してしまう単純なわたし…