「さ、さっきのはまた今度、聞くことにします…」

「…そう?わかった」

「……」

「じゃあね」


わたしの言葉に、瀬戸くんは特に気にかけてくれる様子もなければ、必要以上に追及することもなくて。


またいつものように目を細めて笑ったかと思うと、瀬戸くんは今度こそプールサイドをあとにした。


その姿を目で追い続けながら、やっぱり思い出してしまうのは…昨日聞いた、瀬戸くんの言葉。


“どうして?そんなの決まってんじゃん”


“桐谷が、好きだからだよ”


わたしは瀬戸くんの後ろ姿が見えなくなるまで、いつまでもその背中を見つめていたけれど、

一度も瀬戸くんがこっちを振り向いてくれる事はなくて…


やっぱり昨日の言葉はわたしの聞き間違いだったのかなと、そんな事を考えてしまう自分がいる。


「…っ」


…とうとう瀬戸くんの姿は見えなくなってしまい、

わたしは思わず胸に両手を当て、それをギュッとにぎりしめる。


そして小さく、今にも消え入りそうな声であの人の名前を呼んだ。


「…瀬戸くん…」


片想いしていた頃にはもう二度と戻れない。

たとえどんな事をされたとしても、抜け出せないのは。


それはきっと、近づけば近づくほど、この心があなたに溺れていくから…。