「…っ…?」

だけどその瞬間、その手をやんわり引き剥がされてしまったかと思うと、瀬戸くんに抱きしめられた。


突然のことに、思わずハッと目を見開いて固まるわたし。


そのまま何も言えず震えていたら、ふ…と瀬戸くんの抱きしめる腕が強くなった気がした。


…?

瀬戸、くん…?


「あ、あの…」

「やっぱり泣いてんじゃん。眼が赤くなってる」

「え?あ……」

「それなのに、泣いてないなんて言ったりして、桐谷はうそつきだな」

「……」


瀬戸くんの言葉に、わたしは何も言えない。

そしてそのまま再び俯いてしまうと、瀬戸くんがポツリとつぶやいた。


「…何でだろうな。頭では分かっているのに、桐谷を困らせる事ばかりしたくなる。本当は笑ってほしいのに、どうして俺はいつも桐谷を悲しませる事しか言えないのかな」

「…え…?」


思いがけない瀬戸くんの言葉に、わたしはとっさに顔をあげる。

すると瀬戸くんは一瞬どこか切なげに微笑んでみせたかと思うと、わたしの体からゆっくりと手を離した。


「今日の練習は本当にこれで終わりだから。家帰ってゆっくり休んで」

「……」

「また明日」


そう言い、瀬戸くんは頬を伝っていた涙を指でそっと優しくすくいとってくれたかと思うと、頭をポンポンと撫でてくれた。


そして昨日と同じように、わたしをプールから引き上げてくれると、背を向けて歩き出す。


あ……