水泳のお時間

「こ、これはその…」


頭が真っ白になった。


それでも確かに分かるのは、上下左右とも全て逆に持ったままのビート板。


わたしってばついボーッとしたりして

瀬戸くんから無意識にビート板を受け取っていたこと、気づかなかった。


怒っているのか、それとも呆れているのか

目の前では瀬戸くんが腰に手を当てた姿でわたしを見ている。


自分の不甲斐なさにそのまま何も言えずにいると、瀬戸くんが歩み寄ってきた。


「どうやら忘れんぼの桐谷には、俺が根気よく指導してあげないとダメみたいだな」


ふいに聞こえた瀬戸くんの言葉に、わたしの体がビクリとふるえる。


何かを感じ、とっさに後ろを振りかえった時にはもう、瀬戸くんが既にわたしの背後に立っていた。