水泳のお時間

「…桐谷?」


そう思いかけたところで、瀬戸くんの声がした。

思わずハッとして顔をあげてみると

プール台から戻った様子の瀬戸くんがビート板をかついだままの格好であたしを見下ろしていた。


「しょうがないな桐谷は。昨日教えたこと、もう忘れちゃったの?」

「えっ?…あ…」


今の状況にすぐに反応する事が出来ず、そのままつい上の空でいたら

瀬戸くんがしょうがないなって顔で口を開いた。


ふいに聞こえた彼のため息に、わたしはとっさに目線を自分の手元におろす。


その瞬間…動きが固まってしまった。


だってそこでわたしが目にしたのは、明らかに持ち方のおかしいビート板…。