水泳のお時間

しばらくしてお互いの唇が離れると、瀬戸くんはわたしのおでこにコツンと額を押しあてながら、ゆっくりと口を開いた。

「…何でだろうな。昨日までは泳ぐ桐谷を見るのが、あんなにも嫌だったはずなのに」

「…っ?」

「それよりも今は嬉しいんだ。すげー嬉しい」


そう言って、瀬戸くんはとても嬉しそうに目を細くして笑った。


そんな瀬戸くんを前に、わたしの瞳からはまた大粒の涙があふれてくる。


どうしよう。嬉しい…

瀬戸くんの口からそんな風に言ってもらえる日が来るなんて…。


…わたし、ちゃんと泳げたんだよね…?

瀬戸くんに少しでも良かったって、そんな風に思ってもらえるような納得のいく泳ぎが出来たんだよね…?



「でも相変わらずキスは下手だね」

「…!!」


だけどその喜びはほんのつかの間で。


瀬戸くんの口からあっさりと発せられた一言に、

わたしの後頭部の上を目では見えない大きな石がドカンと落ちた。


慌てて顔をあげれば、瀬戸くんは相変わらず涼しい顔を向けて笑っていて。


しきりにオロオロしたわたしは、結局いたたまれなくなり、体を縮こませた。