水泳のお時間

―――その時


約束のタイムアップを知らせる学校の鐘が鳴り響いた。


そしてその音は水中を潜っていたわたしの耳奥にまではっきりと、確かに届いて。


水面から顔を出したわたしは、

両手は今も目の前のプールの壁を押さえつけて止まったまま、瀬戸くんがいる向こうへと振りかえる。



「ハァ…ハァ…」


だけどその後も驚きを隠せずに、ただ茫然と、息だけをくり返しながら。


視界にぼんやりと映るのは、瀬戸くんの面影。


その姿がしだいにハッキリと見えてきたその時、突然ふっと体の力が抜けた。



「桐谷…!」


その瞬間、遠くで声がして、瀬戸くんがプールに飛びこむ。


そのまま水をかき分けるようにこっちへ走ってきたかと思うと、わたしを抱きあげた。



「桐谷!」


声をあらげた瀬戸くんが、わたしの肩を揺さぶる。


その反動でわたしはうっすらと閉じていた目を開けると、かすかに唇を動かしてみせた。


「…せ…、…っ…」

「…?何言って…?」


口を何度も縦に開いて動かしながら……でも声にならないわたしに、

瀬戸くんがとっさに耳を近づける。


その瞬間、わたしは瀬戸くんの腕をキュッとつかんで握ると、

精一杯声をふりしぼって言った。


「せとくん……、……き」


わたしの言葉に、肩を支えていた力が一瞬、弱まった気がして。


今この時間(トキ)が一瞬、止まったような気がして。


わたしは瀬戸くんに腕に抱きかかえられながら、震える手で静かに顔を覆うと、

さっきよりもはっきりと言った。



「瀬戸くんが……好き」