水泳のお時間

その時、75メートル先の壁にやっと手が届いた。


その感触に安堵する暇もなく、わたしは急いで向きを変えるとすぐにまた引き返して泳ぎだす。



ふとももは縦に動かし、腕は前へ押し伸ばしては引きながら、顔は横にあげて息をする。


これを乗り越えたら。

これを乗り越えさえすれば


あとはもう、夢にまで見たゴールが待ってる。

そう思ったら気持ちが高ぶって、少しでも早く追いつきたいのに。


あと少しという所で、わたしの体は力が出なくなってしまった。


まるで足首に鉛が乗せられたように体が重く感じて、泳ぐスピードも遅くなる。


「…っ…」


しだいに遠のいていく意識に、水しぶきのあがる音も、心臓の音も聞こえなくなる。


タイムの鐘はもう鳴ってしまったのか、それさえも分からなくて。


それでも泳ぎ続けようと、わたしは唇をきつく噛みしめたままゴールの壁に向か
って両足を動かし続けた。


「…っ!」


あと85…


90…


95………