水泳のお時間

左腕を上にあげ、まわして振り下ろしてみたとき、ふと何かが手のひらに当たった気がして。


それがプールのふちだと分かったわたしは、両手でそれを掴むと、

水中の壁に足を引き寄せて膝を折り曲げる。


そしてねじった体ごと、そのままうつ伏せの向きに変えて、壁を蹴った。




“どうでしたか?その…息の練習…”


“うん。上手くはなかったかな。…下手だったね”


“ご、ごめんなさ…”


バタ足から始まって、腕の動き…そして息継ぎの練習と教わってきたクロール。


その中でも特に息の練習は、分からないことの連続で。


初めて瀬戸くんの家へ行った帰り道は上手に出来なくて、

自分の出来のなさに落ち込んだりもした。


だけど…


“次はちゃんと出来るよう、が、がんばりますっ…”

“いや、いいんだよ出来なくて。安心した”

“え…?”

“逆に桐谷が初めから上手く出来てたら、それはそれで…イヤだから”


今なら分かる。

あの時の瀬戸くんが言っていたこと。あのとき話していた瀬戸くんの言葉の理由を。


そしてそんな瀬戸くんを、わたしはとてもズルく…ひどい人だと思った。


わたしに水泳教えてくれると言ってくれたのは瀬戸くんで

泳げないわたしを叱ってくれたのも、瀬戸くんなのに。


でも、だからこそこんなわたしに痛みを教えてくれたのも瀬戸くんだけ。

この心を惑わせ、苦しくさせてくれるのも、あなただけだから。


わたしはこれからも泳ぎ続けたい。


瀬戸くんに、追いつきたいと思ったんだ。