「…さて桐谷は今日、俺にどんな泳ぎを見せてくれるのかな」


準備運動を済ませ、シャワーを浴びて戻ってきたわたしに、壁によりかかった瀬戸くんがニコリと笑った。


そのままジッとこっちを見つめられて、わたしの心臓がドキリとする。


「あ、えっと」

「桐谷は昨日、俺に言ってくれたよね。泳ぐ姿を見てほしいって」

「は、はい…っ」

「それなら桐谷は何の泳ぎを、どんな風に、どれくらいの距離を俺に泳いで見せたいと考えているのか。大まかでいい。桐谷がイメージしてることを俺に聞かせて?」


すると瀬戸くんは壁によりかかる背を止め、まっすぐわたしを見た。


その吸い込まれそうな瞳に、わたしの心臓はドキドキと大きくなって


思わず胸に当てた両手に力を込めると、コクンとうなずく。


「……」

…瀬戸くんにムリを言って今日来てもらったのはわたしの、身勝手で、ワガママな願い…

だけど決して譲ることは出来ない願いだから。


瀬戸くんに何の泳ぎをどうやって、どんな風に泳いで見せたいと思っているのか…考えていなかったわけじゃない。


だって昨日の夜、本当は目を閉じながら…頭の奥でずっとイメージしていたんだ。


瀬戸くんの前で泳ぐ自分を。


目指していたゴールに手が届く瞬間を。