スタート台の上に立ち、そこからプールの様子を見つめながら、結んでいた唇に力をこめる。


……今日で水泳は最後。

本当に今日で、最後だから。

どんな事があっても、後悔だけはしない泳ぎをしよう。



顔を上げると、空はやっぱり曇っていて、太陽は見えない。


それでも不思議と、不安は感じなくて。


…ふいに閉じた瞳の奥に映るのはもちろん、

二度と忘れる事はできない…今日と同じ空をしたあの日のこと…。


初めて瀬戸くんに水泳を教わり始めたあの日の出来事を、思い返していた。


「桐谷」


そのとき後ろで聞こえた…大好きな人の声。


そのまま優しく細められた目に、わたしは顔を赤らめながら頷くと、すぐに駆け寄って走り出した。