足元に広がる、透き通って見える水の世界。

それは今までとまるで変わらない。なに一つ変わらないまま、そこに在るから。


しばらくして、わたしは黙って腰をおろすと、プールの水に足を差し入れ、飛び込む。


だけど…


「…っ…」


泳ぎ始めたその瞬間、急に息がつまったように苦しくなり、体のバランスが崩れてしまう。


とっさに息をして、なおも泳ぐのを続けようとしても、

どうしてか思うように体がついていかない。


焦りから、膝によけいな力が入ってしまい、溺れそうになったわたしは思わず泳ぐの止めて、足を着いてしまった。


諦めきれず、またすぐに泳ぎ直そうとするけれど、同じことの繰り返し。


どうしてかすぐに息が苦しくなり、泳ぐのを体が躊躇してしまう。


昨日までは自然と出来るようになっていたはずの、息継ぎも、浮くことも、

前に進んで泳ぐことさえ、何もかも出来なくなってしまっていて。


わたしはあまりのショックに言葉を失い、唖然としたまま、

まるで別人のように変わってしまった自分の体を見つめる。


「……」


…どうしよう。

どうして?

泳げない。泳げなくなってる。



夕方になっても、その状況は変わらず、わたしは以前のように泳ぐことが出来なくなってしまっていた。


そんな自分にショックを受けて、しばらくの間どうすればいいのか、どうしたらいいのか、

それさえも分からなくて、わたしはプールの真ん中で、一人ぼんやりと立ちすくむ。


そのまま途方に暮れていたその時、ポツリと雨の音がした。


そしてそれは次第に強くなり、大きな音を立てながらプールの水を叩いて弾く中、わたしはふと顔を見上げる。


“夕立ちか。桐谷、今日はひとまず切り上げよう”


“これじゃ風邪ひくし、それにあんまりいっぺんに色んなこと教えたら、桐谷も混乱するだろ?”


“とにかくプールから出よう。身体冷えるよ”


“桐谷がこれからも一生泳げないで溺れたままだったら、俺がその分傍について見ていてあげる理由ができるのにって”


「……」