翌日、わたしは何度も悩んだあと、意を決して教官室のドアをノックし、開けることにした。


「失礼します。あの、先生…」
 
「ん?桐谷か。どうした。今日は授業ないはずだぞ」

「その、プールの鍵を借りに…」

「学校がない日にも水泳の練習とは感心するな。だが昨日瀬戸にも言ったが、月曜からは水泳部が練習するから、学校のプールを使うのはギリギリでも明日までだぞ」

「……」

「桐谷?聞いているか?」

「…はい…分かりました。…鍵、ありがとうございます…」



…どうしてまだ、苦しいんだろう。

どうしてまだ、抜け出せないんだろう。


今日は土曜日で。

学校も授業もなくて、部活動の音だけが外の校庭や向こうの体育館から聞こえてくる中。


瀬戸くんは来ていないのに。

水泳指導はもう、昨日で終わったのに。


それでもわたしはまだこの想いを…あの時間を忘れきることが出来ずに、

学校のプールの前に立っていた。