瀬戸くんはそれだけ言うと、一度もこっちを振り返ることなく、

静かにプールサイドを出て行った。


残されたわたしはそれ以上、何も言えなくて、どうする事もできなくて、

放心状態のままその場に立ちすくむ。


「……」


好きの二文字も

ありがとうの気持ちも


引き止める言葉さえ、あの人へ声に出して伝えることも出来ずに、

しばらくしてわたしはペタンとそこに座り込む。


そして冷たくなった手で顔を覆うと、声をあげて泣き出した。


それでもわたしの頭に今も巡って離れないのは、確かに流れていたあの時間と、まぶしい笑顔と、そして瀬戸くんの言葉…。




“でもその感情は、前に進もうとしている桐谷を阻むものでしかないから。捨てることにした”



「うっうっ…瀬戸くん…瀬戸くん…っ…!!」



瀬戸くんがいなかったら、わたしはここまで来られなかった…!前に進めなかった…!


泳げるようになれても

あなたがそうだと認めてくれても


わたしの心、この心だけは……

いつも、どんな時も、あの日からずっと


あなたに溺れてしまったきり、一度だってそこから抜け出すことも出来ずに、もがき続けている。