「!」


瀬戸くんの言葉に、わたしは大きなショックを受けてしまった。


無意識に走り出そうとしていたはずの足は止まり、そこから動けなくなって。


だけど目の前には今も、背を向けたままの瀬戸くんがいて。


その瞬間、わたしはその姿から目をそらすように、俯いて目をつぶった。


「……っ」


…瀬戸くんの言うとおり、確かにわたしは、少しずつ泳げるようになれてきた。


溺れないでも、ひとりで潜れるようになれた。

水も、自分自身のことだって、やっと好きになれてきたよ。


それがわたしの夢だったし、目指してきたものだから

その気持ちは決して変わらないし、変えることも出来ないけれど。


でも、わたしは…


わたしの心は…っ



「…っ、瀬戸くん、今言ったことは、本当ですか……?」

「……うん」

「わたしの聞き間違いでは、ないのですか…」

「うん…」

「それならあの時、瀬戸くんはわたしに……、好きって…そう言ってくれた事すら捨てて…無かったことにしてしまうんですか…っ?」

「……」


“どうして?そんなの決まってんじゃん”


“桐谷が、好きだからだよ”


それはわたしが初めて瀬戸くんに水泳を教わった日。

瀬戸くんがわたしに、初めて言ってくれた言葉。


その言葉を思い返すたびに、わたしの心は舞い上がって、傷ついて…

そしていつも救われていた。


だけど瀬戸くんはそれさえも捨てて、無かったことにしてしまうのですか……?


「うっうっ……」

「……」


溢れ出した涙が止まらない。

もうこれ以上何も言えなくて、声に出来なくて。


そのまま泣きじゃくっていると、しばらくして、今まで背中を向けていたはずの瀬戸くんがゆっくりと振りかえる。


そしてこっちに顔を見せたかと思うと、泣き崩れるわたしに向かって


瀬戸くんは今まで見たことがないくらい最高の、とびきりの甘い笑顔で、こう答えた。


「そうだよ」