「瀬戸く…」

「とにかくプールから出よう。身体冷えるよ」


そう言って、瀬戸くんはわたしの言葉を遮ったかと思うと

一足先にプールサイドにあがった。


そしてそのまま差し出された手に、わたしは戸惑いつつも手を伸ばしてみる。


「じゃあね、また明日。風邪ひくなよ」


水の中にいたわたしを引き上げてくれると

瀬戸くんはまたいつものように笑って、そのままプールサイドを跡にした。


“また明日”


その言葉に密かな喜びを感じつつ

わたしはそんな瀬戸くんの後ろ姿を見つめ続けながら

雨の中いつまでも手を振り返していたんだ。


「瀬戸くん…」


二年間抱き続けてきたこの想いは一気に膨れあがり、もはや自分の力では抑えられない所まで来てしまった。


その瞬間、わたしは思わずギュッと苦しくなる胸を抱きしめる。


まさかわたし……。

今日がこんな忘れられない日になるなんて思いも…考えもしなかった。


もしかすると明日は、今日よりももっと忘れられない事をされてしまうかもしれない。

だけどもう、後戻りは出来なかった。


だってこの時から既に、わたしの心は瀬戸くんという激流に呑まれ……溺れてしまっていたのだから。