水泳のお時間

“瀬戸くん。わたし…昨日の練習で、小野くんにはっきりと言われました。水泳…向いてない、って……”

“それでもわたし、もう諦めたくない……”


「……!」


だけどその直後、昨日の帰りに自分が初めて瀬戸くんに打ち明けた言葉を思い出し、わたしはハッと我にかえる。


い、今、わたし…

一生泳げないままでいいなんて、そんな最低なこと本気で…本当に考えたりしたの…?


これからもずっと、わたしは泳げないままで

これから先も、わたしは瀬戸くんに本当の気持ちを伝えられないままで。

わたしの心は本当にそれでいいと思っているの……?



そう思いかけた次の瞬間、わたしは今までの気持ちを振り切るように首を大きく横に振って否定した。


違う。泳げないままなんて本当はイヤ。


ぜったい、ぜったい嫌だから…!


泳げないことがコンプレックスの自分を変えたいと思ったのも、

どんなことがあっても最後まで頑張ろうと決めたのも、

初めからそれは全部わたし自身の意志で。


誰かに指図されてそうしようと思ったわけじゃない。


今まで自分で自分の未来を決めることさえ出来なかったわたしだから…


だからこそ、そんな簡単に投げ出すような気持ちや理由で泳げるようになりたいと思ったわけじゃない、決心したわけじゃないんだ。


だからもう逃げちゃだめ。やらないで諦める事だけはもうしたくない…!


こんな事で泳ぐことを諦めて投げ出すようなわたしじゃ、

瀬戸くんに好きっていえる資格なんてないよ…!


その瞬間、わたしは押さえていた瀬戸くんの手を振りきり、

足を前に押し出すと、つま先に力を込めてそのまま勢いよく泳ぎだした。


けれどこの時にはもう、わたしの息や体力はすでに限界を向かえていて


とうとう途中で力尽きそうになったわたしの体を、さっきまで泳ぐのを阻んでいたはずの瀬戸くんが抱き上げてくれた。