水泳のお時間

とつぜん誰かに両足首を掴まれたかと思うと、

そのままわたしを水中下へ引っ張ろうとしてきたのは他の誰でもない、瀬戸くんだった。


驚いたわたしは一瞬何が起きたのか分からなくて、動揺する。


それでも真後ろからわたしの足首を捕らえて動けなくさせているのは紛れもなく、指導者である瀬戸くん、ただ一人で……

わたしは自分の目を疑わずにはいられなかった。


…瀬戸くん、どうしたの?何、しているの…?

なんでこんな…

どうして…?!


「…ひゃっ…!」


だけど次の瞬間、瀬戸くんは足を掴んでいた手にグッと力を込めたかと思うと、

今度は一気にわたしの体をプールの下へと引きおろしてきた。


その衝撃に、思わず悲鳴を出しそうになったわたしはプールの水を飲みこみそうになり、とっさに口を両手で塞ぐ。


すると急に、後ろで足をつかんでいたはずの瀬戸くんの手が離れ、

自由になったわたしはとっさにプールの壁に手を伸ばすと、急いで水面から顔を出した。


「はぁ、はぁ…」


やっとの思いで水面から顔を出せたわたしは、夢中でプールのふちにしがみつくと、何度も必死に息をする。


しばらくその体勢のまま、大きく肩を上下に動かしながら…、


だけどこの顔をあげられずに、プールの水が髪を伝って頬から首筋へポタポタと何度も流れ落ちる。


「……」


…やっとの事で息が吸えるようになっても、プールの地に足がつけるようになっても。


わたしの膝はガクガクと大きく震えあがって、まっすぐ立っていられる事が出来なかった。


…認めたくない。違うって思いたい。

これは何かの間違いだって、そう思いたいけれど…

それでも、わたし…


そこまで思いかけて、わたしはゴクッと息をのむ。


そして今も震えの止まらない手で必死に胸をおさえながら、

わたしは確かめるように少しずつ…おそるおそる後ろをふり返った。


するとそこに居たのは、やっぱり……



「せと、くん…」


信じたくない。信じたくないけれど、でも…

もしかして瀬戸くん、今の…まさか…


わたしを―――わざと溺れさせようとしたの……?