水泳のお時間

それにしても…さっきのわたし、

どうして自分ひとりで泳ごうなんて思ったりしたんだろう?


瀬戸くんが見ていない間に泳ごうとすればどうなるか、

自分でも分かっていたはずなのに…。


それでも、あの時のわたしは自分が溺れるかもしれないなんて事、

一瞬だって思わなかった。考えもしなかった。


こんな気持ちは初めて。今まで一度もなかったのに。

…わたし、一体どうしちゃったの…?


「今日は桐谷がどこまで泳げるようになったのかこの目で確かめたい。俺が止めていいと言うまで、桐谷はこの壁に沿って泳いで」


そんなことを考えていたら、瀬戸くんが横に見えるプールの壁を指さして言った。


その言葉にわたしは小さく頷きかえすと、言われたとおり横の壁に沿って泳ぎ始める。



プールに潜った瞬間、外気の音は一気に遮断され、水の音だけがわたしの耳に届く。


…ゴーグル越しから見える水の世界は驚くほど青くキレイで。


まるで、自分は今ここで空を飛びながら泳いでいるみたい。


そう思ったら最初はどこか遠慮がちにゆっくり動かしていたはずの足は、しだいに動きを速め

前に伸ばしてジッとしていただけの両腕は、

いつの間にか水の中をかき分け、クロールしていた。


その動きに合わせるように、自然と息もしている。


(わたし、泳げてる…)


わたしはこのとき、初めて自分で自分を信じられると思えた。

それはきっと、水は怖いものじゃないと知ったから。

そして水泳は一人で泳いでも、決して独りきりで泳ぐものじゃないと気づけたから。

…大丈夫。もう泳げる。もう怖くない。そう思った。


「?!」

だけどその時、突然後ろから誰かに足首をつかまれた気がして、目を開く。


そしてその手は止まらず、まるでわたしの体をプールの底へ引きずり込むように引っ張ろうとしてきて…


誰っ……?!

とっさにそう思い、ビックリしたわたしが後ろを振り返ると……



―――!!

瀬戸くん……?!