水泳のお時間

プールの壁に寄りかかり…わたしはそっと静かに目を閉じる。


「……」


…ひとりで水に入るのも、だいぶ慣れてきたと思う。


初日では人一倍強く感じていたはずの水への恐怖心も、

それは練習を重ねるごとに薄れて、今では肩まで浸かった水が気持ちいいとさえ思うようになれた。


そして自分でもその変化が、まるで手に取るように分かるから…。


だけどここまで来れたのは、決してわたし一人だけの力じゃない。



その瞬間、わたしは閉じていた目をひらくとゴーグルをはめ、そのまま勢いよく泳ぎだした。


たくさんの水の粒が弾けて飛び出す中、腕は大きく開いて奥へと伸ばし、

つま先は力を抜いて動かしながら、全身は前を目指して息をする。


だけどこの時はもう決して水がイヤでも、怖いとも思わなかった。


ただただこの瞬間を楽しいと感じながら。近づきたいと願いながら。


無我夢中でゴールに向かって泳いでいる自分がいた。



だけどやっとゴールの壁が見えたと思った瞬間、

一気に息が苦しくなり、視界が暗くなった。


まるで体中に酸素が行き届かなくなったように、胸が熱くなる。


でも、ここで止まったりしたらだめ。

向こうで、わたしが、瀬戸くんがやっと……見えるのに。

もう少し…もう少しだから…っ


「っ…!?」


あと少しのところでゴールの壁に手が届きそうになったそのとき


とうとう息があがり、溺れそうになったわたしの腕を、誰かが掴んで引き上げた。