水泳のお時間

「瀬戸くん…?」


長かった授業も終わり、とても心待ちにしていたその日の放課後。

急いで着替えを済ませたわたしは、期待と緊張を胸に、おそるおそる更衣室のドアをあける。


そのままプールサイドへ顔を出してみたけれど、瀬戸くんはまだ来ていないみたい…。


水の音だけがするプールサイドへつま先をおろし、瀬戸くんの姿を探しながら…

自然と視線は壁に貼られた時計へと向けられる。


…瀬戸くん、どうしたんだろう?

いつもならこの時間には来ているのに…


内心不安に思いつつも、わたしは持ってきたタオルで全身を包むと、

プールサイドの隅っこに座り込み、瀬戸くんがやって来るのを大人しく待つことにした。




視線の先に見える、大きくて青い世界。


遠くから風の音がして、

そのたびに上へ上へと押し上げられたプールの水が向こうで小さく揺れている。


その光景を見つめながら、ときおり壁の時計に何度も目を向けてみるけど、瀬戸くんが現れる様子はなくて


しばらくしてわたしは突然スクッと地面から立ち上がると、

目の前のプールに向かってまっすぐ歩き出した。



「……」

足元に広がるのは、さっきよりもずっと近く、透き通って見える水の世界。


…気がつくと、わたしの体は自然と水面に向かってつま先を動かし、今にも中へ入ろうとしていた。


その衝動を抑えきれず、とうとう足首ごと水の中へ差し入れてしまった自分に、

驚いたわたしはハッと後ろを振りかえる。


…どうしよう。

許可なく勝手に入ったりしたら…お、怒られちゃうかな…。

でも瀬戸くん、まだ来てないみたいだし…

少しだけなら……