「あ…あ、の…」


瀬戸くん。わたし…わたし…、本当はずっと前から、あなたに言いたいことが……


ずっと、ずっと、瀬戸くんを知ったその日から伝えたいことが…


「瀬戸くん…あ、あの……わ、わたし…そ、その…」

「…桐谷?」

「……っ…!あ、ありがとぅ…」


思い切って打ち明けようとして、でもやっぱり言えなくて……

結局いつもの言葉しか伝えられなかったわたしに


瀬戸くんは一瞬不思議そうな顔をしつつも、すぐにふっと口元を崩して笑い、

暖かな眼差しを向けてくれた。


その柔らかな笑顔に、わたしも精一杯の笑顔を瀬戸くんに返しながら…

手は胸を押さえ、今にもこみ上げようとする想いを必死にこらえる。


「どういたしまして」

「……」


まだだめ…。

まだ言っては、だめ…。


あともう少しでやっと、やっと向き合えそうなのに…、焦って急いだりしたらだめ。


焦って今ここで、この想いを口にしてしまえばきっと……

わたしはもう一生泳ぐことは出来ない気がする。


「瀬戸くん、きょ…今日は本当にありがとう。おやすみなさい」

「うん。おやすみ」


わたしの家の下までが、瀬戸くんと一緒にいられる…かけがえのない時間。


だんだん遠くなっていく瀬戸くんの後ろ姿を見送りながら…

わたしは今日も、いつまでもこの手を小さく振りつづける。


「……っ」


瀬戸くん。


わたし…あなたを知ってから二年間、

本当はあなたにとても伝えたくて…だけど、言えなかった言葉があります。


自分に自信がなくて、ずっと言葉に出来なかったこと。

でも夢が叶ったら言える気がする。やっと…言える気がするから…


その時は、聞いてくれますか?


わたしの、この想いを―――


「瀬戸くんが好き…大好き…」



泳げるようになれたその時、わたしはあなたに言いたい。

…伝えたい。


わたしにとって貴方は、他の誰にも代えられないほど大切で


そして他のどんな言葉とも変えがたいほど、心から愛しい存在だという事を。