水泳のお時間

あの人は、あの時の……

わたしがそう思いかけたとき、

裏庭での出来事がとっさに頭をよぎり、思わず体が強張る。


だけどその人はまたあの時のように何か言おうとするわけでも、何かを差し向けようとするわけでもなく……、


一度だけわたし達に気が付いたかと思うとすぐにその目をそらし、足早にその場を走り出していった。


「……っ」


その足音を背に、わたしはこらえきれず下を向く。

そのままとっさに胸に当てた両手をギュッ…と震える指で握りしめた。


…今

今、わたし達を見たときの、あの人の目…すごく腫れてた。

もしかしてあれから一日中、ずっと泣いていたのかな。


瀬戸くんを想って……。



「桐谷」


俯いたきり、足が止まったままでいると、後ろにいた瀬戸くんがわたしの肩に触れる。

そのままそっと前へ優しく押し出された手に、わたしもゆっくりと歩き出した。