水泳のお時間


その瞬間、わたしは水面から顔をあげる。


そのまま息をするのも忘れて、真っ先に姿を探したのは――

「驚いたな。こんなに早く達成できるなんて」

「…!」

「でも桐谷なら出来ると思ってた」


そう言って、わたしの頭に手を置いてくれたのは瀬戸くん。


最初は何が起きたのか分からなくてしばらく茫然としていたけど、

その暖かな笑顔にわたしもようやく息をして、現実を確かめる。


…今わたしが掴んでいるのはビート板でも、瀬戸くんの支えでもない。

わたしが触れているのは、ゴールの壁。


そしてその隣には……。


「~~~っ」


その瞬間、わたしの体は歓喜で震え、それをかみ締めるようにこの手に力を込めた。


「今の感覚を忘れないうちにもう一度泳いでみようか」

「!はいっ…!」


…夢じゃない。夢じゃないんだ。

ちゃんと近づいてる。


わたし自身との距離は、確かに近づいてる。




その後も瀬戸くんとの練習は続き……

外も暗くなり、学校を出ようと瀬戸くんと階段を下りてきたその時。


昇降口の玄関で一人、誰かうずくまっているのが見えた。


「…桐谷?」


思わず足を止めて顔をあげたわたしに、瀬戸くんが後ろから声をかける。


するとその声に反応するように、


うずくまっていたその子はこちらの方へ顔を向け、わたしは思わず目を開いた。


!!


あ……


――自分は泳げませんとかウソまでついて、瀬戸くんに近づこうとするなんて最低。