水泳のお時間

「…っ」


戸惑うわたしの顎を押さえて、瀬戸くんの唇が重なる。


この前感じた時よりももっと優しく、いたわるように…。

触れるように重ねては、まるで優しくついばむようなその甘い口付けに、

初めは緊張していた肩の力も少しずつ抜けていって。


しだいに息が苦しくなると同時に瀬戸くんの顔が離れ……

わたしが小さく息を吸うと、再び瀬戸くんの唇が優しく重なる。


それは全部、わたしが前に瀬戸くんの部屋で教わってきたこと全てで、

まだ潜ってはいないのに、不思議と本当に自分が今水の中を泳いでいるかのような錯覚がした。


「桐谷?」


しばらくのあいだ目を閉じて、泳いでいるのを感じていると、ふいに瀬戸くんの唇が触れた。

その瞬間、わたしはハッと目を開ける。


「思い出した?」

「は、はい…っ」

「じゃあさっそく練習しよっか。さっき泳いだ時とは違うと思うから」


瀬戸くんの言葉に、この時のわたしはもう、頷き返すのだけで精一杯…。


そんなわたしとはまるで違い、瀬戸くんはやっぱり冷静というか、むしろ最初から割り切っているように感じて……

きっとこの行為も、瀬戸くんにとっては指導の内でしかないんだと思った。


「まずはこの前みたいに俺が桐谷の手を持って前を歩くから、桐谷は息継ぎをする事に集中して」

「わ、分かりました…」


そっか…そうだった。これが瀬戸くんにとっての指導の仕方。


なのにわたしってば本気にして、また舞い上がって…。


わたしも練習に集中しなくちゃ…。


瀬戸くんに言われて、わたしは気持ちを思い改めようと自分に言い聞かせる。


すると瀬戸くんは、さっきまで水中で沈んでいたわたしの手を優しく水面まですくいあげてくれたかと思うと、

一瞬目で何か合図をし、それとほぼ同じタイミングでわたしのつま先がプールの地面から浮いて離れた。