水泳のお時間

肩までプールの水に浸かることが出来たわたしに、瀬戸くんが囁くように尋ねる。


「桐谷、ゴーグルは持ってきた?」


その言葉に、わたしはコク、と頷く。

そして、今まで両手に握りしめていたゴーグルを取り出すと、

瀬戸くんに向かってオズオズと差し出した。


「なら今日は潜って泳いでみようか」

「は、はい」


潜る。その言葉に、思わず心臓の鼓動が速くなった。


慣れない手つきながらも、わたしは急いでゴーグルを顔にはめる。


ようやく準備が整ったわたしに、

瀬戸くんはわたしの手を引き寄せてプールのふちを握らせると、その場で足を泳がせながら、水に顔をつけるよう促した。


「…ぷはっ」


何とか顔は一人で水に浸けることができた。


だけど、すぐに息が苦しくなってしまい、数秒も経たないうちに、

水面からとっさに顔をあげてしまう。


また挑戦するけれど、何度やってもやっぱり同じで。

わたしはとうとうプールの下に足をつけてしまった。


…どうしよう。


気まずくてそのまま振り向くことが出来ないわたしに、瀬戸くんが後ろで口を開く。


「潜れるようにはなったみたいだけど、続かないね。息の仕方、忘れちゃった?」

「…っ…」

「そう。忘れちゃったんだ。それならもう一度、俺がちゃんと息の仕方を教えてあげないとダメかな」

「えっ?あっ…」


驚いてわたしが声をあげるよりも先に、

瀬戸くんは背を向けていたわたしの肩をつかんで、前を向かせる。


そのままわたしの背中を容易くプールの壁に押さえつけてしまったかと思うと、

どこか余裕たっぷりの笑顔を向ける瀬戸くん。


そして目線はわたしの鼻の、もう少し下を見つめながら……

ゆっくりと近づいてきた瀬戸くんの顔に、

ふいにこの前、瀬戸くんの部屋でキスをしながら息の練習したことを思い出し……わたしの顔が赤くなった。