水泳のお時間

「遅くなっちゃった…」


その日の放課後、少し遅れて更衣室へと駆け込んできたわたしは、

急いで水着に着替えると、ゴーグルを腕に抱えながら、急ぎ足でプールに出る。


だけど…

プールサイドを見渡しても、そこに瀬戸くんの姿はなくて。

不安になり、その場で一人キョロキョロしていると、突然うしろから誰かに引き寄せられてしまった。


「あっ、せ、瀬戸くん…」

「どこ行ってたの?」

「えっ?」

「遅いから、心配した」


ビックリして振り向くと、わたしのすぐ後ろには瀬戸くんがいて。


そのまま優しく抱えるように、わたしのお腹に瀬戸くんの腕がまわされて、顔が赤くなる。


「ごめんなさ…ク、クラスの人に、呼び止められてて…」

「それは男?」


まるで割って入るように尋ねられたその言葉に、

わたしは一瞬戸惑いながらも、すぐに首をフルフルと横にふって否定する。


でも瀬戸くんは、なかなか離してくれなくて…

困惑していると、わたしの髪に瀬戸くんの指先が触れ、絡ませた。


「せ、瀬戸くん?」

「…あれから、また誰かに嫌なこと言われなかった?」

「あっ…は、はい」

「じゃあ俺以外の男に言い寄られたりは?」

「!そ、それも…ないです…っ」


瀬戸くんが助けてくれたから、大丈夫。

小野くんの事も、きっと平気。


だけどそう思う今も、瀬戸くんの指は楽しそうにわたしの毛先をいじりながら、

わざと意地悪く顔を近づけてくるから、わたしは言いかけようとした唇を押し閉じずにはいられない。


どうしよう。そ、そんな耳元で囁かれたら、わたし…っ


「そう。なら良いよ」


コクン。わたしが何とかそう頷くと、瀬戸くんはようやく離してくれた。


だけどわたしの体はすっかり熱に浮かされたまま、立っているのもやっとで…

今にも倒れそうになりながら瀬戸くんを見つめる。


しばらく何も言えずにいると、瀬戸くんは先にプールに飛び込んで

そのまま優しく差し出された手に、わたしも頷いて手を伸ばすと、プールの水に足をつけた。