水泳のお時間

「そうだよな?桐谷」

「えっ」


とにかくビックリして、ひたすら目を開けたり閉じたりしていると、

突然こっちに目を向けた瀬戸くんに同意を求められてしまった。


まるで有無を言わせることも許さないような瀬戸くんのその、どこかしたたかな笑顔に……

わたしはしばらくのあいだ困惑しながらも、押されるようにコクッ…と小さく頷きかえしていた。


その瞬間、大勢の中にいた女の子がこっちに近づいて、荒々しく口を開く。


「じゃあ瀬戸くんはやっぱり、ほんとに桐谷さんなんかと付き合ってるの?!正気?!」

「そう思うなら、そうなんじゃない?」

「…!」


まるであたかも付き合ってることを匂わせるような、本当のところはわざとあいまいにさせる瀬戸くんの発言に、

女の子たちの顔からいつの間にかサッキだった表情は消え、曇っていく。


そのままとうとう黙り込んでしまった女の子たちに向かって、

瀬戸くんはおもむろにわたしの肩に手を添えて顔を近づけながら、静かに微笑んだ。


「それに桐谷は“なんか”じゃないよ」


そう言って、瀬戸くんはすんなりわたしから手を離したかと思うと、今度は女の子たちのところへと歩み寄った。


「一対一ならまだしも、大勢で寄ってたかって桐谷を責めて、最後は暴力でモノを言わそうとするなんて、そっちのする事の方が最低だよね」

「…っ」

「今日こそは大目に見るけど、もしまた同じことをしたら…許さないよ」


後ろに居るわたしからは、瀬戸くんの表情は分からなかったけど

いつもの声でいつもの物腰で、そう呟いてみせた瀬戸くんの背中は、明らかに怒っているように見えて、その場の空気が一瞬で凍りつく。


そう感じたのはきっと、わたしだけじゃなかったんだと思う。


瀬戸くんの言葉に、女の子たちは何か言い返すわけでもなく、うつむきながら…

まるで逃げるようにその場を走り出していった。


だけど、その人たちとすれ違うときに…わたしは見てしまった。


女の子たちの、今にも泣き出しそうな顔を…