水泳のお時間

「ちょっといじめてみただけじゃん。そんな顔するなよ」

「……っ」

「ほらそうやって桐谷がすぐ泣き出すから、またいじめたくなる」


瀬戸くんは少し困ったように笑うと

思わず泣き出してしまったわたしの体を抱きしめ、髪を大事そうに撫でてくれた。


そのとき瀬戸くんの筋肉質な胸板が頬に当たって、わたしの胸の鼓動は一気に速くなる。


だめだよわたし。

こんな事くらいで緊張してちゃ、呆れられちゃう…っ

それでも瀬戸くん…わたし…わたし…っ



しばらく瀬戸くんの胸の中に抱き寄せられていたら

今までゴロゴロと音を立てていた空がとうとう雨を降らせ始めた。


それを見た瀬戸くんは途端にわたしから手を離したかと思うと

冷たい雨を降らす灰色の空を仰ぎながらため息まじりに呟いた。