水泳のお時間

「桐谷、よそ見しないでこっち見て」

「で、でも、いや…」

「桐谷。わかってる?これでも俺は怒ってるんだよ。俺が見てない間に他の男に迫られて、いいように利用されたりして。桐谷はどこまで俺に手をかけさせるつもり?」

「っ…ご、ごめんなさい…」


とうとう怒らせてしまったんだと思い、一気に体がふるえあがった。


そのままとっさに涙ぐんでしまうと、わたしを押さえていた瀬戸くんの手がすぐに離れた。


「ごめん。こんな事を言うつもりじゃなかったんだけど。本当はあの時、つまらない意地を張ったりして、小野に対して、らしくない対抗意識を向けた自分に一番、怒ってるのかも」

「瀬戸くん……?」

「結果的にまた桐谷を危険な目に遭わせてしまったし、子供じみてるのは俺の方か」

「!そんな……」


さっきまでの迫力はもう無くて、

どこか悩ましげな表情を浮かべる瀬戸くんに驚き、わたしは必死に首を横に振る。


するとそんなわたしに、瀬戸くんは目を細めた。


「でもその代わりに、一つ分かった事がある」

「え?」


分かったこと?


わたしがそう繰り返して尋ねると、

目の前の瀬戸くんがカタッと椅子から静かに立ち上がり、壁に片手をつきながら身を乗り出して、甘い笑顔でわたしを見下ろした。


「そう。溺れるのが得意な桐谷に、水泳を教えられるのは俺だけだってこと。それは俺にしか出来ない」

「!」

「だからもう誰にも教えさせない。俺以外の誰にも、二度と触らせないから」


ドクン。


どんどん近づいてきた瀬戸くんの、まるで囁くような言葉に、わたしの胸がふるえた。


瀬戸くん、それって…


思わずそう言いかけようとしたわたしの唇を、

瀬戸くんはまるで遮るように「シーッ」と指で押さえてみせたかと思うと、悪戯に笑う。


そして息を吹きかけるように甘くつぶやいた。


「だからその証明に、付けるよ。…俺のだって印」