水泳のお時間

「……」


小野くんが出て行くと、急に部屋の中が静かになって、瀬戸くんと二人きりになった。

シンとした沈黙が、ほんの少しの間わたしたちを包む。


「あ、あの…」

「桐谷」

「!は、はいっ」

「もう平気なの?」

そう思ったらとたんに緊張してきて

内心ドギマギしながらも必死に笑顔を作って話しかけようとしたら、

突然瀬戸くんが真剣な顔つきを向けてわたしを見た。


まるで全てを見透かすようなそのまっすぐな視線に、

びっくりしたわたしはとっさに大きな顔をあげて返事をしたけれど

しばらくして首を横に倒しながら瀬戸くんを見つめる。


「起きてすぐだから分かりづらいかな。もう休んでなくていいのかってことだよ」

「?やすんでなく、って…?」

「さっきまでプールに溺れて気絶してたんだ。疲れてるなら、ムリして笑おうとしなくていいから」


さっきまでのどこかトゲのあるような雰囲気とは違い、

とても穏やかな瞳を向けて言った瀬戸くんに、わたしはポカンと目を開く。


そしてすぐに瀬戸くんの姿を見つめた。


…そういえば瀬戸くんの髪、少し濡れてる…。


着ているジャージも心なしかちゃんと乾いていないような、

水に入ってびしょ濡れになったあとのような、そんな風にも見てとれるし…


わたしは何度も心の中で考え、迷いながらも、思い切って口を開いた。


「あ、の…もしかして、溺れたときにわたしを助けてくれたのって…?」

「もちろん俺に決まってるだろ。…なに?まさか小野だと思ってたの?」


その瞬間、わたしはあわててフルフルと首を横にふる。

同時に、言葉に出来ない嬉しさがひしひしとこみ上げて、

ギュッと両手をにぎりしめた。


…や、やっぱり。あの時わたしをプールから引き上げてくれたのは小野くんじゃない。瀬戸くんだったんだ。

本当はもしかしてと、心の中で期待しつつも…

でもわたしから瀬戸くんに聞けなくて。あまりの嬉しさに、わたしは涙が出そうになった。


良かった、夢じゃない…。

瀬戸くんがわたしを、助けてくれた。


ジャージ姿のまま、飛び込んできてくれたんだ。