水泳のお時間

「……っ」


やっとの思いでプールの水を体からはき出すと、一気に肩の力が抜けてしまった。


そのまま疲れきったように首を横にもたげてグッタリするわたしの体を、

すぐさま瀬戸くんが抱きあげて立ち上がる。


「お、おい、瀬戸…」

「触るな。今この状況がどういう事か…もし俺が見ていなかったら桐谷はどうなっていたか、分かるだろ。水泳経験者なら」

「……」


瀬戸くんの言葉に、小野くんは黙ってしまった。


わたしは今もこの目を開けられずに、ただひたすら呼吸をせわしなく繰り返すことしか出来なくて…


大きく波打つプールの水の音だけが、わたしたちを包んだ。


「…桐谷が休める場所まで連れていく」


そう言い残して、今もグッタリしているわたしを横抱きにしたまま、

無言でプールをあとにする瀬戸くんに、小野くんは何も反論しなかった。


キィと開いた音がして、プールサイドと更衣室を隔てるドアが閉まる。


「……」

「桐谷」


プールの音が遠くなって、静まりかえった室内に、瀬戸くんの声だけが響く。


今も大きく上下に肩を動かしながら、うつろな目を浮かべたままでいると、

足を止めた瀬戸くんがとっさに何かつぶやいたような気がした。


「…ごめん」


すると瀬戸くんはわたしを抱えたまま、足早に歩き出した。


どこか心地の良いその振動に、ぼんやりしてくる意識の中、

思わず小刻みに揺れた自分の体に、瀬戸くんの腕の力がグッと強まった気がして。


その力強さに安心し、わたしはとうとう気を失った。