向こうのドアが開いて誰か入ってきたかと思うと、そこから瀬戸くんが現れた。


その瞬間、わたしは大きく目を開く。


「瀬戸くん…!」


つい嬉しくなって、わたしは思わず声を弾ませて瀬戸くんを呼ぶ。


だけどそんなわたしとは対照的に、

瀬戸くんはこっちに気づいて近づいてきてくれたかと思うと、どこか険しそうな表情をして、静かに口を開いた。


「桐谷」

「!は、はい」

「今日は俺が教えるわけじゃないんだから、俺になついてたらダメだろ?」

「…え?あ…はぃ…」

「小野の言うことをよく聞いて、練習に集中して」


瀬戸くんの思ってもみなかった言葉に、わたしはビックリしてしまう。


そしてそのまま何も言えなくなってしまい、すっかり困惑してしまったわたしに、瀬戸く
んは頭をポンポンと撫でてくれた。


「…最初は不安かもしれないけど、俺がここでちゃんと見てるから、安心して」


瀬戸くんはやっと少し微笑んでくれたかと思うと、わたしから少し離れた場所へ…

見学者用のベンチに腰かけた。


わたしはこの時、瀬戸くんに叱られてしまったことや、

瀬戸くんとの距離が遠くなってしまったことに、心寂しさを感じたのももちろん、あったけれど


何より瀬戸くんが、いつもの黒いサーフパンツではなく、ジャージ姿だったことが、とても悲しかった。


…瀬戸くん、やっぱり今日は観ているだけなんだ。


わたし、もしかして本当は瀬戸くんが昨日の決断を考え直して、

小野くんにダメだって、やっぱり俺が教えるって、きっとそんな風に言ってくれるんじゃないかって、心のどこかで期待してた。


でも、そんなのあるわけないよね……。


「いつまで見てんだよ」


それでも、未練は拭えなくて、向こうにいる瀬戸くんのことをいつまでも気にかけてしまっていると、

目の前にいた小野くんが苛立ったように口を開いた。


「今日教えんのは俺だろ。よそ見すんなって」

「…っ…」

「こっち来いよ」


何も言えないわたしに、小野くんは怒ったようにグイと腕を引っ張ったかと思うと、そのままプールの前に連れて行かれた。