「意識を無くすかもしれないって、元水泳部の俺がそんなヘマすると思うか?…それともなに?まさか妬いてんの?」

「これは指導者としての義務だ。それが気に入らないなら、取り引きは受けないし、そのゴーグルも必要ない。今すぐどこかへ捨てればいい」


一切の迷いもなく、まるで切り捨てるように言い放った瀬戸くんに、その場の空気が一瞬で張りつめた気がした。


そしてそれ以上何か言うわけでもなく、ただ冷たい目で小野くんを見ている瀬戸くんは、わたしでも思わずゾッとするくらい怖く感じて……


その迫力に、あの小野くんでさえ凄んでいるのが分かった。


「…わかったよ」


すると小野くんは内心まだどこか気に食わない顔をしながらも、観念したように口を開いた。


その言葉に、わたしは思わず安堵したのもつかの間、

小野くんがこっちに歩み寄ってきて、体がビクリと震える。


「ま、瀬戸の許可もおりたわけだし、これで俺も気兼ねなく桐谷さんに水泳を教えられるってわけだから」

「…っ…」

「ってことで、明日よろしくね、桐谷さん」


何も言わない…言うことが出来ないわたしを前に


まるで今朝の出来事を思い出させるように、小野くんはさり気なくわたしの肩に手を置いたかと思うと、そのまま階段を下りていった。