水泳のお時間

だけど、そんなわたしの想いが届くことはなく


瀬戸くんは少しの間、何かを考えるように瞼を伏せていたかと思うと、

しばらくして顔をあげ、そしてあっさりと首を縦に動かした。


「あぁ。いいよ」


そう言って、瀬戸くんは表情ひとつ乱すことなく、まっすぐ小野くんを見た。

瀬戸くんの言葉に、わたしはショックを受けてしまう。


そんな…どうして……

どうして?

瀬戸くん……っ


「さすが。話の分かるやつは違うよ」


瀬戸くんの判断にすっかり気を良くしたのか、

向こうに見える小野くんは満足そうに口角をあげて笑った。


わたしはショックで何も言えない。


とにかく何も考えることが出来ず、しばらくの間、顔をうつむかせて放心していると、

瀬戸くんがゆっくりと口を開いた。


「ただし、何かあった時のことを考えて、小野と桐谷を二人きりにさせる事は出来ない」

「は?どういう意味だよ」

「桐谷はまだ自分一人の力だけで泳げるわけじゃない。つまり、桐谷がいつ溺れて意識を無くすか分からない分、小野が桐谷にどんな指導をするのか、俺に見させてほしい」


瀬戸くんの思いがけない言葉に、驚いたわたしはとっさに落ち込んでいた顔をあげる。

するとそれは小野くんも同じだったみたいで、どこか意表をつかれたように一瞬目を開いたかと思うと、

すぐに不服そうな表情で瀬戸くんを見た。