水泳のお時間

「頑張ったな」

「うぅ~~っ…」


その瞬間、まるで子供みたいに体を丸めて泣き出してしまったわたしの背中を、

瀬戸くんは優しくさすってくれた。


このとき、ようやく初めて差し出してくれた瀬戸くんの手に、胸がトクンと高鳴る。


瀬戸くん…。

さっき後ろが見えなくてパニックになった時、瀬戸くんは一度も手を差し伸べてくれなくて


わたし、本当はすごく悲しかった。見放されてしまったんだと思った。


…だけどあの時、瀬戸くんがあえて最後までわたしに手を差し伸べようとしなかった理由が


こうして泳ぎきることが出来た今、やっと分かったよ。気づいたよ。

瀬戸くん、ありがとう。



「桐谷も無事泳ぐことが出来たし、今日はそろそろ引き上げようか」


しばらくして瀬戸くんが空を見上げながら言った。

その言葉に、わたしもふと顔を見上げてみる。


すると今朝見てみた時よりも、空は一面どんよりとした灰色の雲で覆われ始め、

今にも大雨が振り出しそうだった。


「はい」


しばらくその光景を見つめていると、瀬戸くんは一足先にプールサイドへあがった。

そしてそのまま差し出された手に、わたしは迷うことなく手を伸ばす。


「瀬戸くん」

「ん?」

「わたし、頑張ります」


わたしの言葉に、瀬戸くんが微笑んでうなずいてくれた。

そのまま頭を優しく撫でてくれる瀬戸くんを感じながら、わたしはそっと目を閉じる。


…これでまた一つ、目標が叶った。また一歩、夢に近づいた。


でもたぶん本当の困難はきっと、これから。

それでも、瀬戸くんと一緒ならどんなことも乗り越えられる。


この時は、そんな気がした。





外の雲行きが良くないせいか、夕方まで部活動をしていた人たちは早めに練習を切り上げ、下校し始めていた。


おかげで、校内に残っている生徒たちはほとんどいないみたい。


これなら瀬戸くんと一緒に帰っていても、

誰かに見られることはないだろうし、外も暗い分、顔までは分からないと思う。


だから今日は一緒に帰っても、きっと大丈夫だよね……。