水泳のお時間

「っ…?瀬戸く…」


とつぜん視界に入った瀬戸くんの姿に、わたしは目を見開く。


そのままとっさに名前を呼ぼうとしたら

瀬戸くんは黙って自分の唇に人差し指を当てたかと思うと、

わたしの少し前へ立ち、ゆっくり後ろ向きで進みはじめた。


そんな瀬戸くんを目で追いながら、わたしはふと心の中で考える。

…?

瀬戸くん…?これって…


わたしの目になろうとしてくれてる…?


「…っ」


わたしの頭の少しななめ上に映る、瀬戸くんの顔。

あれから瀬戸くんは何も言わない。わたしに手を差し伸べたりもしない。

ただ黙ってわたしの前に立ちながら、後ろ向きでゆっくりと進んでいく。


…ゴールは瀬戸くんにしか分からない。


だから、後ろを確認することができないわたしは、

唯一ゴールの場所が見えている瀬戸くんの姿を目で追いながら、ついていくしかない。


瀬戸くんだけを信じて、泳いでいく。



気がつくと、さっきまでの不安は、いつの間にか消えていた。

とにかく必死で瀬戸くんのことを目で追って、見失わないよう精一杯手足を大きく動かして。


後ろが見えなくて不安だった気持ちも

瀬戸くんが居てくれるから、安心してこの身を委ねられた。

瀬戸くんだから、信じられる。