水泳のお時間

瀬戸くんの指導のおかげで、しばらく経ったころには、さっきまでのぎこちなさが嘘みたいに、

わたしの体は一定のバランスを保ったまま、自然と浮いて進む事ができるようになった。


そんなわたしの後頭部は、今も瀬戸くんの手に支えられたまま…。


どれくらい泳いだのか分からないくらい、たくさん練習して、いっぱい見つめ合って…


ようやく気持ちに余裕が出てきたころ、瀬戸くんがやさしく目を細めながら言った。


「そろそろ一人で泳いでみようか。ためしに手を離すよ。いい?」


瀬戸くんのその言葉に、思わず緊張が走った。


ひとりで…。


クロールや平泳ぎを教わったときもそうだったけれど


今まではずっと瀬戸くんの補助やビート板など…

必ず何かを頼りにすることで、その時は一時的に泳ぐことができた。


でも今からはもう、その瀬戸くんの補助や支えも、なくなってしまう。


たった一人。

信頼できるのは、この体だけ。


「…っ」


そう思ったらとたんに不安になって、泳ぐことがまた怖く感じた。


全身がこわばって、心臓の音がとたんに速くなる。


その衝動から、とっさに逃げ出してしまいたくなったけれど、

グッと唇をかみ締め、その気持ちを必死で押しこめた。


…もう、いつまでも怖がってはいられない。

いずれは自分自身の力で泳がなくちゃいけないのだから。


昔のわたしとはもう、サヨナラするんだ。


「大丈夫、です。やってみます」


覚悟を決め、わたしが思い切ってコクンとうなずき返した同時に、瀬戸くんの手が離れた。