水泳のお時間

後ろで瀬戸くんが歩くたびに、同じ分だけ真上の空も動いて、わたしたちに付いてくる。


そんな空に追い越されてしまわぬよう、つま先をひたすら上下に動かして必死になっていたら、

瀬戸くんの笑う声が聞こえてきた。


「なに一人で、空と戦ってんの」

「…だ、だってっ…」

「空よりも、俺を見てよ」


頭の後ろには、瀬戸くんの手。

そして目の前には…瀬戸くんのやわらかな眼差し。


当たり前に息をするのも難しいくらい、わたしの頭の中…瀬戸くんでいっぱいで。

上手に目を合わせられずにいたら、瀬戸くんがフッと微笑んだ。


「まだ目線がフラフラしてるよ。照れてんの?」

「ち、違…」

「違う?ならちゃんと俺を見て。恥ずかしくないなら出来るだろ?」


ねぇ瀬戸くん。


そうやって、あなたはいつもわたしにイジワルを言うけれど。


その言葉とは裏腹に、わたしの頭を支えてくれるその手つきが、

まるでガラスを扱うように優しいのは、わたしの考えすぎですか…?


「桐谷はほんと分かりやすいな。顔、まっか」

「~~~~っ」


わたしはただ瀬戸を見つめて

わたしはただ瀬戸くんに見つめられてる。


ただそれだけ。そう思えばいい…だけ、なのに…。

それだけの事が、恥ずかしくて…うれしくて。


胸が苦しくなってしまうのはきっと、わたしだけ…。