水泳のお時間

「あ、あの…おろしてください…っ」

「だめ。下ろさない」


恥ずかしさからとっさに逃げようとするわたしの体を、瀬戸くんが掴んで離さない。


しまいには瀬戸くんの長く骨ばった指先が、わたしの腰から下へとおりてきて…

思わずギュッと目を押しつぶった。


「…っ…」


冷たいプールの温度とは裏腹に、しだいに熱くなるわたしの心。


その熱に溶かされて沈んでしまわぬよう、

小刻みに震える手で必死にしがみついていたら、瀬戸くんがフッと微笑んだ。


「…桐谷は軽いな。なのにどうして泳ぐとすぐ溺れちゃうのかな」


瀬戸くんの細く長い指先が、わたしの腰から太もも…そして膝裏へと下りていく。


そして緊張からか、すっかり動かなくなってしまい、

下に沈みがちだったわたしのつま先を水面へつかみ上げると、こう言った。


「でも、そんな桐谷も好きだよ」

「…え?」


すき…? 今瀬戸くんが、好きって わたしを好きって、そう言った…?


けれどそれは本当にほんの一瞬の出来事で。


驚いて目を見開いたのもつかの間、

瀬戸くんはわたしの体から器用に腕を抜いてしまったかと思うと、すぐに先方へとまわり、わたしの後頭部を持った。